なぜ親世代は「仕事最優先」が当たり前と思うのか? 30代娘のワークライフバランス観とのギャップ
はじめに
「最近働きすぎじゃない?」「もっと楽な仕事にしたらどう?」
親御さんから、このような心配の言葉をかけられることはありませんでしょうか。特に離れて暮らしている場合、電話やメッセージでの短いやり取りの中で、ご自身の働き方や忙しさに対して親御さんが難色を示すことに、モヤモヤを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、親御さんはあなたの体を心配し、幸せを願って言葉を選ばれています。しかし、その背景にある「働くこと」や「人生」に対する価値観が、ご自身のものと大きく異なるために、素直に受け止められなかったり、時に衝突を感じたりすることもあるでしょう。
この記事では、親世代が「仕事最優先」を当たり前と考えがちな理由と、現代を生きる私たちが重視する「ワークライフバランス」との間に存在するギャップについて掘り下げます。お互いの価値観がなぜ形成されたのかを知ることで、相手を頭ごなしに否定することなく、より建設的なコミュニケーションを図るヒントを見つけていきましょう。
親世代の「仕事最優先」価値観が生まれた背景
親世代、特に現在の60代以上の方々が多く社会で活躍されていた時代は、日本の高度経済成長期やそれに続く安定成長期にあたります。この時代の働き方には、いくつかの特徴がありました。
- 終身雇用と年功序列: 一つの会社に長く勤め、勤続年数に応じて給与や役職が上がっていくシステムが一般的でした。会社は家族のようなものであり、組織への忠誠心や貢献が非常に重視されました。
- 長時間労働の常態化: 国全体が豊かになることを目指し、多くの人が長時間働くことを厭いませんでした。残業や休日出勤は当たり前で、「滅私奉公」「モーレツ社員」といった言葉に代表されるように、仕事に打ち込む姿勢そのものが美徳とされていました。
- 経済的な安定の追求: 戦後の混乱期や不況を経験している方も多く、経済的な安定、家族を養うための収入を確保することが人生において非常に重要な目標でした。そのためには、多少の犠牲(プライベートの時間の削減など)はやむを得ない、という考え方が根付いています。
- 情報の限定性: 現在のように多様な働き方や価値観が容易に手に入る時代ではなく、マスメディア等を通じて提供される画一的な情報や、周囲の同調圧力が強い傾向にありました。
これらの背景から、親世代にとっては「良い会社に入り、そこで一生懸命働き、家族を養い、経済的に安定した生活を送ること」が、働くことの最大の目的であり、人生の成功モデルとして強く意識されていました。仕事で多少つらいことがあっても、「家族のため」「将来のため」と耐え忍ぶことが当然であり、プライベートよりも仕事を優先することは、むしろ責任感のある立派なことだと考えられていたのです。
現代の「ワークライフバランス」観
一方、現在の30代、特にITエンジニアのような専門職に就いている方々は、親世代とは全く異なる社会環境で働いています。
- 変化の速い時代と成果主義: 技術革新が目まぐるしく進み、業界の変化も非常に速い現代では、終身雇用は当たり前ではなくなり、個人のスキルや成果がより重視される傾向にあります。市場価値を高めるためには、常に学び続け、変化に対応していく必要があります。
- 多様な働き方: リモートワーク、フレックスタイム、副業、フリーランスなど、働き方の選択肢が格段に増えました。働く場所や時間にとらわれず、個人のライフスタイルや価値観に合わせて柔軟に働くことが可能です。
- 自己実現やプライベートの重視: 経済的な安定はもちろん重要ですが、それだけでなく、仕事を通じて自己成長したい、社会に貢献したい、あるいはプライベートの時間も充実させて趣味や家族との時間を大切にしたい、といった「働くこと以外の価値」を重視する傾向が強くなっています。
- 情報過多な社会: インターネットやSNSを通じて、世界中の多様な価値観やライフスタイルに触れることができます。これにより、「こうあるべき」という固定観念にとらわれず、自分にとっての幸せを追求しやすくなっています。
ITエンジニアという職種は、プロジェクトの納期に追われることもありますが、同時に効率化ツールを駆使したり、リモートワークを活用したりと、生産性高く働くための手段も豊富です。限られた時間で最大限の成果を出すことが求められるため、長時間労働を漫然と続けることよりも、心身ともに健康な状態で集中して働くこと、つまりワークライフバランスを保つことの重要性を肌で感じている方が多いのではないでしょうか。
世代間のギャップから生じる衝突と理解のためのヒント
親世代の「仕事最優先」観と、現代の「ワークライフバランス」観。これらの価値観の衝突は、以下のような具体的な状況で現れることがあります。
- 長時間労働への反応: 娘が忙しいと言うと「働きすぎだ、体を壊す」と心配する親に対し、娘は「効率を上げていて、無理はしていない。この忙しさは成果に繋がる」と感じる。親は労働時間で頑張りを測り、娘は成果や生産性で測る。
- 休暇や休息への考え: 娘が積極的に有給を取ったり、趣味や旅行に時間を使ったりするのを見て、親は「そんなに休んで大丈夫なのか」「仕事が大変じゃないのか」と訝しむ。親は「休まず働くこと」を美徳とし、娘は「休んでリフレッシュすることが長期的な生産性を高める」と考える。
- 仕事とプライベートの境界線: 娘が仕事の話とプライベートの話を明確に分けるのに対し、親は仕事の悩みを全て打ち明けてほしい、あるいは仕事が全てだと思っている節がある。
これらのギャップを解消し、お互いを理解するためには、以下の点を意識することが有効かもしれません。
1. 相手の価値観の背景に関心を持つ
親御さんがなぜ「仕事最優先」という考えに至ったのか、その時代の社会背景や親御さん自身の具体的な経験(苦労話など)に耳を傾けてみてください。単なる昔話としてではなく、「今の親を作った考え方」として理解しようと努めることが第一歩です。彼らが犠牲にしてきたもの、守りたかったものを想像することで、見え方が変わってくるかもしれません。
2. ご自身の価値観を具体的に伝える
「ワークライフバランスが大事」と抽象的に言うだけでなく、「効率的に働くことで、限られた時間でこれだけの成果が出せる」「リフレッシュすることで、より集中して仕事に取り組める」「プライベートの時間が、新しいアイデアや学びの機会を与えてくれる」といった、具体的なメリットやご自身の考えを冷静に伝えてみてください。感情的にならず、論理的に説明することで、親御さんも理解しようとしてくれる可能性があります。
3. 言葉の定義をすり合わせる努力をする
「忙しい」「大変」といった言葉が、世代によってニュアンスが異なることがあります。親御さんの「忙しい」は「長時間労働で体力的につらい」を指すかもしれませんし、ご自身の「忙しい」は「短時間で多くのタスクをこなすため集中している」を指すかもしれません。お互いの言葉にどのような意味が含まれているのか、確認し合うことが誤解を防ぎます。
4. 共通の目標や価値観を探す
働くことに対する価値観は違えど、「家族が健康で幸せであること」「将来に備えること」といった根本的な願いは共通しているはずです。価値観の違いそのものに焦点を当てるのではなく、お互いが大切にしている共通点を見出すことで、歩み寄りのきっかけが生まれます。
5. 過度な期待を手放す勇気を持つ
全てを完全に理解してもらうことは難しい場合もあります。親御さんの心配やアドバイスを「自分を思って言ってくれている」という愛情表現として受け止めつつ、価値観の違いからくる部分は、ある程度聞き流したり、軽く受け流したりする術も必要です。完璧な理解ではなく、「尊重」を目指すことも大切です。
まとめ
親世代と私たちの世代では、働いてきた社会環境が大きく異なるため、働くことに対する価値観にギャップが生じるのは自然なことです。親世代の「仕事最優先」の背景には、彼らが経験してきた時代の働き方や、家族を守ろうとする強い責任感があります。一方、私たちの世代が重視するワークライフバランスは、多様な働き方や自己実現を求める現代社会を反映したものです。
どちらの価値観が「正しい」ということではなく、それぞれが置かれた環境の中で培われてきたものです。お互いの価値観の背景にあるものを理解しようと努め、ご自身の考えを丁寧に伝える対話を重ねることで、たとえ完全に一致しなくても、お互いを尊重し合える関係を築くことに繋がります。
世代間の働く価値観ギャップに悩む方が、この記事を通じて、少しでも関係改善に向けたヒントを見つけられることを願っています。