世代ギャップ解消navi

なぜ親は「ありがとう」を求めてしまうのか? 感謝の伝え方・受け取り方の世代ギャップ

Tags: 世代間ギャップ, 親子関係, コミュニケーション, 感謝, 価値観

はじめに

親御さんとの会話の中で、「何かにつけて『ありがとう』って言ってあげてるのに、なんだかピンと来ていないみたい」「逆に、親から『感謝されたい』というメッセージを間接的に感じるけど、どう応えたらいいか分からない」といったモヤモヤを感じたことはありませんでしょうか。

私たちは親に対して感謝の気持ちを持っているものの、その伝え方や、親からの感謝の受け取り方に、どうも世代間のズレがあるように感じることがあります。このズレが、お互いの気持ちを完全に理解し合う上での小さな障壁となることも少なくありません。

本記事では、親世代と私たち世代における感謝の伝え方・受け取り方の違いに焦点を当て、その背景にある世代ごとの価値観や社会状況の違いを解説します。そして、このギャップを理解し、より建設的な関係を築くための具体的なヒントを探っていきます。

感謝の伝え方・受け取り方に世代間ギャップが生じる背景

親世代、特に昭和の時代に青春期や働き盛りを過ごされた世代と、平成・令和に成人期を迎えた私たち世代では、社会環境や価値観が大きく異なります。この違いが、感謝を含む感情表現やコミュニケーションスタイルに影響を与えています。

親世代が多く経験した高度経済成長期は、家族が一体となって困難を乗り越え、経済的な豊かさを追求する時代でした。「家族のためなら犠牲もいとわない」「身内は助け合うのが当然」といった相互扶助の精神や、「多くを語らずとも察する」ことが美徳とされる文化が根強くありました。このため、親世代にとっては、家族間のサポートは「当たり前」のことであり、改めて言葉で「ありがとう」と伝えるよりも、行動で示すこと(例えば、家族のために働く、家事をする、援助するなど)が感謝や愛情の表現と見なされる傾向がありました。

また、「ありがとう」という言葉が、かしこまった場面や、相手に借りを作った際に使うもの、あるいは目下の者から目上の者へ敬意を示す言葉、というニュアンスで捉えられていた可能性もあります。そのため、身内に対して頻繁に使う言葉ではなかった、あるいは、感謝よりも「苦労を労う」「努力を認める」といった意味合いでの「ありがとう」を期待する場合があります。

一方、私たち世代は、より個人主義的な価値観や、感情をオープンに表現することを重視する文化の中で育ってきました。SNSの普及なども後押しし、言葉によるコミュニケーションや、共感・承認といった心理的なつながりを大切にする傾向があります。感謝についても、些細なことでも言葉で「ありがとう」と伝えることが一般的であり、また、自分の貢献や気遣いに対して「ありがとう」と感謝されることで、承認されたと感じ、安心感や喜びを得ることが多いのではないでしょうか。

このような背景の違いから、親世代は「あれだけやってあげたのに、ひと言も感謝の言葉がない」「感謝しているなら、もっと実家に顔を出すべきだ」のように、行動や態度で感謝が示されることを期待したり、感謝の言葉を「評価」や「労い」と捉えたりするのに対し、私たち世代は言葉で感謝を伝え合い、相手からの言葉による感謝を期待するといったギャップが生じやすいのです。

感謝の伝え方・受け取り方の具体的なすれ違い例

この世代間ギャップは、日常の様々な場面で現れます。

感謝のギャップを理解し、関係改善へつなげるヒント

このような感謝の伝え方・受け取り方のギャップは、どちらかが悪いわけではありません。お互いの背景にある価値観やコミュニケーションの「言語」が違うだけです。この違いを理解することが、関係改善への第一歩となります。

  1. 相手の「感謝の言語」を理解する努力をする: 親御さんが言葉での感謝をあまり口にしなくても、どのような行動で感謝や愛情を示しているかに注目してみましょう。頻繁な連絡、食事の用意、体調を気遣う言葉、昔の話をすること、アドバイスをすることなど、親御さんなりの「ありがとう」「大切に思っているよ」というサインがあるはずです。それらのサインを意識して「これは親なりの感謝/愛情表現なのだな」と受け止めることで、言葉にならない感謝を感じ取ることができるかもしれません。
  2. 自分の「感謝の言語」を分かりやすく伝える: あなたがどのような時に感謝を感じ、どのように感謝を伝えたいのかを、率直に、しかし丁寧な言葉で親御さんに伝えてみましょう。「〇〇をしてくれてありがとう、と言葉で言ってもらえると、すごく嬉しいんだ」といったように、あなたのコミュニケーションスタイルを説明することで、親御さんも理解しやすくなります。ただし、相手に「強要する」形ではなく、「私はこう感じる」という形で伝えることが重要です。
  3. 感謝を具体的に伝える練習をする: 親御さんに対して「ありがとう」を伝える際は、「~してくれて、ありがとう」のように、何に対する感謝なのかを具体的に言葉にすることで、より気持ちが伝わりやすくなります。例えば、「この前送ってくれた野菜、すごく新鮮で美味しかったよ、ありがとう」「いつも私の体を心配してくれて、ありがとう。その気持ちが嬉しいよ」といった伝え方です。
  4. 期待値を調整する: 親御さんに、自分と同じレベルや形の感謝の表現を期待しすぎないことも大切です。世代や個人の性格によって、感謝の表現方法は異なります。親御さんからの感謝の言葉が少なくても、それはあなたが感謝されていないということではなく、単に表現方法が違うだけだと理解することで、必要以上に落ち込んだり、不満を感じたりすることを減らすことができます。
  5. 感謝以外のポジティブなコミュニケーションを増やす: 感謝だけでなく、「すごいね」「さすがだね」といった尊敬や承認の言葉、「疲れていない?」「無理しないでね」といった気遣いの言葉など、他のポジティブな感情表現も積極的に行ってみましょう。感謝の言葉以上に、親御さんの心に響く場合もあります。

まとめ

親世代と私たち世代の感謝の伝え方・受け取り方の違いは、それぞれの生きてきた時代背景や価値観に根差した、自然なものです。この違いを知らないままでは、お互いの気持ちがすれ違い、関係性に小さなヒビが入ってしまうこともあります。

大切なのは、どちらのスタイルが優れているかではなく、違いがあることを認め、理解しようと努めることです。親御さんなりの感謝や愛情のサインを読み取ろうとすること、そしてあなた自身も、あなたがどのように感謝を伝え、受け止めたいのかを丁寧に伝えること。完璧にお互いを理解することは難しいかもしれませんが、歩み寄りの努力を続けることで、感謝を通じて、親御さんとの関係をより温かく、より豊かなものにしていくことができるはずです。

少しずつでも、お互いの「感謝の言語」を学び合い、尊重し合うことから始めてみましょう。